みやけ雪子タイトル

2019年08月07日

▼▽▼ソウル国際マラソン2019▽▼▽ ランナーに国境はない(よしおか弁護士)


弁護士ランナーのよしおか弁護士のコラムです。

ペースメーカーの目印になる黄色の風船をランシャツに括りつけていると、先輩のリュさんから「ヨシオカ、お前が前を行け」と声を掛けられた。
 
ソウル国際マラソン2019のスタート前。僕は所属する光化門マラソンクラブからの派遣でサブスリー(フルマラソンを3時間以内に完走すること)のペースメーカーを担当し、リュさんと2人で市民ランナーを引っ張る任務を負っていた。光化門マラソンクラブは韓国内の大会にペースメーカーを派遣する名門クラブだ。僕も2年前に外国人初の会員となり、以後年に数回ペースメーカーを務めてきた。

実は少し前に膝を痛め思うような練習ができていなかった。今回は僕がペースメイクする自信がなく、ベテランのリュさんが僕の前を走ってくれることを密かに期待していただけにリュさんの言葉に戸惑った。しかし、リュさんが「前を行け」というのは僕を信頼してのことだろう。怪我は完治している。断る選択肢などなく僕は首を縦に振った。今日は僕がペースを作ろう。

ペースメーカーは「走る時計」だ。サブスリーを狙う市民ランナーのために目印となって一定のペース(1キロ当たり4分15秒)で走り続けなければならない。速くても遅くてもダメなのである。

号砲と同時にリュさんと走り出したところでハプニングが待っていた。

調整不足のためスタート直後はGPSウオッチ(GPSで位置情報を捕捉し現在速度を表示するもの)を見ながらペースをつかむ予定だった。しかし曇天で信号をキャッチできないのか僕のGPSウオッチの表示がおかしい。キロ4分15秒を示すところまで速度を上げたが体感的にこのペースは速すぎる。3キロを過ぎても全くペースをつかめず、ただ速すぎると感じていた。後方のリュさんを見る余裕もない。ソウル国際マラソンは光化門広場をスタートし、序盤に市庁舎、南大門、明洞、東大門デザインプラザといった観光地を巡る贅沢なコースだったが、景色に目をやる余裕は全くなく1キロごとの表示も目に入らなくなっていた。

5キロの通過タイムは20分14秒。想定タイムより1分早かった。周囲のランナーに「速すぎるぞ!」と言われて頭が真っ白になった。焦りの中で僕を光化門マラソンクラブに誘ってくれたキム先輩の言葉が思い浮かんだ。「5キロごとにタイムを調整すればよい。あまり時計を気にするな。」時計を気にせず自分の感覚だけを信じて走ろうと決めた。10キロの通過タイムは41分24秒。まだ少し速いが気持ちは随分落ち着いてきた。

僕が着用していたクラブのユニフォームの背中には「Yoshioka」の文字が書かれている。周囲のランナーには僕が韓国人でないことが分かるし、多分日本人の名前であることも分かるのではないかと思う。15キロを過ぎた辺りで僕にピッタリと付いて走るランナーに気付いた。日本人である僕のペースメイクを信じて走りを合わせようとしているのが息遣いから伝わってくる。給水ポイントでは僕の分までドリンクの入った紙コップを取って渡してくれた。

しばらく走ると隣のランナーからボトルが差し出された。ランナーの1人が沿道の友人から受け取った栄養ドリンクのようだ。韓国の大会ではドリンクを全部を飲まずに周囲のランナーで回し飲みすることをしばしば経験する。僕も必要な量を飲み感謝の気持ちを込めてから後方のランナーにボトルを渡した。

心に余裕ができたのは36キロ地点、漢江にかかる蚕室(チャムシル)大橋に差し掛かった辺りだろうか。僕にとって100回目のフルマラソン、10回目のソウル国際マラソン、この大会でのペースメーカーは3回目。ハプニングがあったが今年のソウル国際マラソンもあと6キロで終わってしまうと思うと少し寂しい気持ちになった。40キロ地点でリュさんが前に出た。周りのランナーもラストスパートでペースを上げる。僕の周りにランナーはほとんどいなくなり、あとは気楽だった。


蚕室総合運動場に入ると走路の両側に柵が設置されていて,応援の人だかりが花道のようであった。風船を付けた僕をねぎらう声も飛んで来る。競技場に入って腕時計を見るとまだ少し時間に余裕があったので、歩きながら後方のランナーに大きな声を掛けた。42.195キロを走った3時間、ランナーに国境はなかった。再び走り出した僕はトラックを一周しゴールゲートに吸い込まれていった。

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